2008年07月04日
人事と出世の方程式(書評・感想)
目次
- プロローグ
- 第一章 出世の構造
- 第二章 なぜ人事を変えるのか
- 第三章 給料の上がる人、下がる人
- 第四章 幹部候補生の選び方
- 第五章 登用も多様性の時代
- 第六章 転機は突然やってくる
バブルや失われた10年の間に人事制度はクローズアップされるようになったけれども、登用という部分で見るとあまり変わっていないことが本書で確認できる。
「なんでもやる夫」が優秀なサラリーマンとして認められる日本社会でBMO(目標管理制度)のみの成果主義に突っ走って失敗するのは当たり前。職務の範囲が明確でないならみんな達成できる目標を立てるに決まっている。
とにかく90年代は未曾有の社会疲弊で、経営者も何かにすがりつきたかったに違いない。その後
女性の管理職の比率は04年4月の段階で1.6%だった。これを07年に約4%に引き上げ、04年4月には5%のコミットを掲げて達成した。P155
これらをダーバーシティ(多様性)として礼賛する向きがある。しかし、管理職の男女比率にコミットすること自体違和感がある。適性に管理職にしていくのが本筋で、それこそ男性何名、女性何名という枠組み自体がおかしい。
「女性の力を!」などと安易に頼っているように思える。いや頼っているポーズのみで現在管理職になっている女性のほとんどがその能力に関わらずスケープゴート的なさらされ方ではないか?小池某みたいに。
というような時代の要請を色濃く反映する人事制度を俯瞰するにはとてもよい本だと思うけれども、普遍性はない。
昇進・昇格を含めた人事方程式は多元化・連立化し、解は一つではない。P151
と書いてしまうあたり、題名に偽りありだ。
評価方法や細かいことはさておき、成果主義以来、ベアなし、人件費総額は増えないという企業が増加している。年齢だけではない次の軸を探している状況だ。
選ぶのが人間である以上、選ぶ人間の能力に依存する。仮に自分よりも能力がある人間がいれば、それを恐れ、頭を抑える可能性がある。下のものを自分より高い能力と認め、プッシュすること、それ自体が能力だ。
本書にはいろんな方法で女性や若い人たちを引き上げる方法が書いてあるけれども、経営者に加えるなど英断と呼べるものはまだまだ少ない。「下を少し上に上げました」とお茶を濁す程度だ。
たまたまステークホルダーがモノを言うとあわてふためく。ヅラメーカーの社長が交代させられたけれども、本来経営者こそ責任がつきまとうものだ。
やっぱり黒船みたいな襲撃を受けてはじめて目がさめるかも知れないし、こういう本は経営者が読むべきだろう。
もっとも部下の登用という権力の使い方ではなくて企業発展のために真剣に考えるべきなのだが。
「自分がさっさと去ることこそ優秀な人材を登用するチャンスだ」そんな英断をする経営者はいまい。
サラリーマンであれば本書で他の企業の制度を知っておくことはおおいに参考になるだろう。人事に問題点を感じていない企業などないのだから。