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2008年01月23日

高学歴ワーキングプア(書評・感想)

高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院 (水月昭道著)を読む。私もまんまと大学院に行ったクチ(ただし修士)。
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→光文社 高学歴ワーキングプア

大学院重点化というのは、文科省と東大法学部が知恵を出し合って練りに練った、成長後退期においてなおパイを失わんと執念を燃やす“既得権維持”のための秘策だったのである。

はじめに
第1章 高学歴ワーキングプアの生産工程
第2章 なぜか帳尻が合った学生数
第3章 なぜ博士はコンビニ店員になったのか
第4章 大学とそこで働くセンセの実態
第5章 どうする? ノラ博士
第6章 行くべきか、行かざるべきか、大学院
第7章 学校法人に期待すること
おわりに

私は社会人入試で入学している。だから本書が描く人物像、学卒からそのまま研究者を目指して博士号を取得、その後大学の空き枠待ちのドクター とはちょっと違う。ゆえにプアだけれど、ここで言うワーキングプアとは違う。

私が就職する頃はまだ大学院はマイナーな存在で「ドクター」と言えば「ごいす〜」な時代だったように思う。

しかし、大学院の門戸が広くなり、かつ大学院の設置も多くなったわけだから私なぞでも院卒である。そこで博士まで取得した人があふれる。一方で有名大学の研究室を頂点とするヒエラルキーみたいなものがあって、研究者への道は(筆者曰くほぼ)閉じられている状況を見て「ほえっ」と漏らしてしまった。なんとなく知っていたけれども。

実際国立大学の教授が定年で私立大学から招聘され・・・というケースがよく見られる。また

金メダリストの高橋尚子氏が母校である大阪学院大で、その特任教授に就任したのは2006年11月1日〜中略〜現在研究者をめざす若者が教授になれる見込みは、ほぼない。P117

大学の宣伝を考えれば、金メダルをはじめ露出の多い人を据える方が学生を集めやすい。まあでも論文を書いたことがない人に審査されるのはやだな。

有名人や上から落ちてきた人で常勤講師はしめられている。著者の言をとれば「論文をどれだけ書いたか?」など関係ないそうである。

言わば 大学院重点化施策は大学の存続のための人集め、(既存)研究者の受け皿というところなのだそうだ。

だから非常勤はいつまでたっても非常勤。バイトで食いつながなければならない。

さらに著者が指摘するポイントとして「博士を活用しないことは損失」大学院を卒業するまで大学4年、修士2年、博士3年。相当な補助金(税金)がつぎ込まれている。にも関わらず常勤として雇用することなく、フリーターを生産する工場であると。

→404 Blog Not Found:就活オワタ

そもそも、本当に優秀、というより企業にとって必要な人材は、今や就活、企業から見れば新卒採用などしない。このあたりの事情は「プロ・ヘッドハンターが教えるデキる人の引き抜き方」を読めばわかる。新卒採用した人材を社内で育てて戦力(著者の言うところのエリート)にする時代は、日本でも前世紀に終っている。

実際、海外では新卒採用というコンセプトそのものがないところの方が多い。それどころか「卒業したての大学生のみを募集対象」とすることが法律で禁じられていたりする。通年採用こそ「グローバル・スタンダード」で、日本ももはやそうなったと言っていいのではないか。

と指摘するように、博士をはじめ、フリーターを量産する背景には「年齢を意識した人事制度」が大きな要因をしめると私は考えている。そこを変えなくては修士、博士に限らず雇用は限定的になる。

博士と言えば何年間かその分野の研究を続けているわけで、いわゆるオールマイティな会社人間にはなりにいくいものの、秀でた研究分野や今までとは違うものの見方を持っている。

だから博士が世の中に余っている今こそ、企業は博士号を持つ人たちをすばやく「買う」べきだ。彼らには国としても大きな投資をしている。

もちろん、「もうちょっとモラトリアムを!」と就職を回避した人もいるかも知れないが、サラリーマンとなってしまってはできない経験をしている人もいるかも知れない。

・・・会社で育てる・・・という時代はとうの昔に終わっていると思う。手塩にかけてもその教育が10年後、20年後「無力化」している可能性もある。であればこそ、違うアプローチをしてきた人間を企業が雇用するメリットは大きい。リスクヘッジとして様々な人が企業にはいた方がいいと思うのである。

ともあれ、大学院にすすむか否かを迷う学生も多いと思う。ちょっとしんどいが社会人入試という裏道で裏道から表道に戻ることができるかも知れない。最近はそちらの方が早道だった!ということも。。。

就職に関して言うと「新卒以外お断り」はまだしばらく続きそうだ。だからこそ、企業が「博士を採用する」なら今だ。

セカンドライフとしての大学院も一つの選択肢であるということを学生の方は忘れてはいけない。実務経験でひょいといかれてしまうからね。

高学歴ワーキングプアたちは、大学市場全体の成長後退期と、無謀にもそれに抗おうとした既得権維持の目論見の間に生じた歪みに産み落とされた、因果な落とし子だったのである。

〜中略〜現在の日本で大学院、とくに博士課程に進学することはあまりにも高いリスクの割に、メリットはほとんどないように思えてしまう。P168

願わくば、その身につけた見識を研究者を狙うばかりに埋もれさせること無く、企業でもブログでもいいので世の中に発信して欲しいと思う。

まあポスドクの方々と企業のギャップはあるとは思うけれど。

 

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1. 部下は育てるな!取り替えろ!!(書評・感想)  [ blog50-1 ]   2008年01月23日 17:29
部下は育てるな! 取り替えろ! ! Try Not to Develop Your Staff (光文社ペーパーバックス)を読む。 「詰め替え用はどこで販売しているのでしょうか?」
2. 現代の貧困(書評・感想)  [ blog50-1 ]   2008年01月24日 11:28
現代の貧困―ワーキングプア/ホームレス/生活保護 (ちくま新書 (659))を読む。格差の問題ではない。貧困である。ただ、田舎の方が貧困は少ないのかなと思うが。。。
3. 高学歴ワーキングプアー  [ 本の宇宙(そら) [風と雲の郷 貴賓館] ]   2009年10月18日 16:41
 かっては、優秀な人の将来性を表す言葉として、「末は博士か大臣か」という言葉があったが、今や完全に死語と化してしまっている。  私が学生の頃は、理工系でも博士課程に進むものは少なかった。その一番の理由は、就職の間口が極端に狭くなるからだ。理工系の場合は....

この記事へのコメント

1. Posted by へっぽこ   2008年01月23日 22:32
なんだか切ない話です…。
2. Posted by blog49   2008年01月24日 08:36
ずっと長いスパンで見れば「博士号」とか取得しておくと損は決してしないと思うのです。もっとも研究内容とか捨てなければの話ですが。
「継続は力」・・・発揮はいつか。。。
3. Posted by さくらPaPa370歳の≡Slowlife   2008年01月24日 20:10
5 今晩はお久しぶりです
大阪は昼間から小雪がチラツキ、小雪ちゃんは外で遊び・・・・??
今晩は冷え込むみたいで山は雪の予報
明日は天気になるかな??
笑う門に福来る。

あなたのBlogにEMO(エモ)を貼ると面白い変化が・・さくらPaPaの「ココロ分析」から。。
4. Posted by ITおやじ   2008年01月25日 14:30
ワーキングプア層は今後も増えていくでしょうね。

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